【BOOK】星を見た人生 ⑴ ーある主婦の不倫のおはなし?
昨今おおはやりの「不倫」に関連するはなしです。
イギリスのルーマー・ゴッデンという女性が書いた、「ねずみ女房」という絵本があります。
素朴な絵と、やわらかい文章で構成された絵本です。
そんなかわいらしい絵本なんですが、
「これは不倫を奨励する本だ」
と、物議をかもしたのです。
* * *
ちょっと長くなりますが、あらすじを記します。
結末まで書いてしまいますので、楽しみにとっておきたい……という方は読み飛ばしてください。
ある家に、ねずみの一家が住んでいます。
ねずみの女房は、夫と自分の食べ物を集め、これから生まれる赤ちゃんのための巣をつくり、日々を忙しく過ごしている、いわゆる専業主婦です。
しかし、そのめすねずみはほかのねずみと何かが違った。
《「これいじょう、何がほしいというんだな?」と、おすねずみは聞きました。
めずねずみには、何がほしいのかわかりませんでした。
でも、まだ、いまもっていない、何かが、ほしかったのです。》
あるときその家に、きれいなはとが持ち込まれました。
家の主の独身夫人ははとを鳥かごに入れ、エサの豆をあたえますが、はとは元気がなく、豆は残されたまま。
それに気づいためすねずみは、自分と家族のために、鳥かごにしのびこんで豆を失敬するようになります。
しだいに、めすねずみは元気のないはとを気にかけます。
そしてめすねずみははとから、これまで知らなかった家の外の世界の話を聞きます。
飛ぶということ、遠くの山のこと……。
めすねずみは夢中になってはとのもとに通いました。
すると、夫からこう言われます。
《「おれは、気にくわん。ねずみの女房のおるべき場所は、巣の中だ。……」
めすねずみは答えませんでした。めすねずみは、遠くを見るような目つきをしていました。》
その後めすねずみは出産。
赤んぼうのことしか考えられない日々を送ります。
しばらくして、めすねずみは、子どもが眠っているうちにはとのもとに行きます。
すると、はとはすっかり衰弱していました。
そして、
《はとは、つばさをひろげて、めすねずみをだくようにし、くちばしでキスしました。
はとのはねが、そんなにやわらかくて、はとの胸が、そんなにあたたかいものだということを、めすねずみは、はじめて知りました。》
巣に戻ると、何かを察したのか、おすねずみはめすねずみの耳に噛みつきました。
自由なはとがかごに閉じ込められていることを不憫に思っためすねずみは、眠ることができず、寝床を抜け出して鳥かごに向かいます。
そして、かごの留め金をくわえ、苦労して扉を開けた。
はとは、ねずみがいることに、気づきませんでした。
そしてついに、はとは、窓の外に飛び立った。
《「ああ、あれが、飛ぶということなんだわ。」と、めすねずみは思いました。
「これでわかった。」》
もうだれも、外の話をしてくれない。そして自分は日々の生活に追われるうちに、そうしたことを忘れてしまうだろう。
めすねずみは涙をはたき落としながら、窓の外を見ました。
すると、星が見えた。
《星を見るということは、ごくわずかなねずみにしかできないことです。……
「……はとに話してもらわなくても、わたし、自分で見たんだもの。わたし、自分の力で見ることができるんだわ。」》
そうして誇りを胸に抱き、めすねずみは生活に戻りました。
* * *
わたしがこの絵本を印象深く感じたのは、夫以外の男と心を通わせるという、絵本にしては大胆な設定と余韻に魅かれたというのはもちろん、自分がアラサーになって再読すると、結婚や出産を含めた女の生き方というものを、この絵本に突き付けられたと感じたからです。
家庭という、ある意味閉じられた世界が、生々しく描かれている。
この絵本を通じて、女の人生の選択肢、というものについて考えさせられました。
以降、児童文学者の意見やほかの作品も踏まえて、わたしが考えたことを、つづっていきたいと思います。
(⑵につづく)
(絵本に限らず、いい原作・いい訳・いい挿絵がそろった本は美しい)