TRAVELER'S JOURNAL

世界一周経験者による、本・旅・アートの記録

【ART】郵便配達人との再会 ⑵ ー欲望のコレクション

アメリカのボストン美術館は、主に個人の寄贈や寄付によってコレクションの拡充を続けているそうです。

上野のボストン美術館展は、日本美術を集めたアーネスト・フェロノサをはじめ、数々のコレクターの紹介がなされているのが大きな特徴といえましょう。
寄贈者にここまで注目した展覧会というのは、わたしはこれまで見たことがありません。

* * *

三菱一号館美術館館長・高橋明也による新書『美術館の舞台裏』には、以下のようなアメリカの美術館事情が書かれています。

《実はアメリカの館長にとって、女性に好感をもたれる魅力があるかどうかは大袈裟ではなく死活問題につながります。
女性のなかでも、富裕層の未亡人の心を掴むことが必須です。》

というのは、アメリカの美術館は寄付と富裕層のコレクターからの寄贈に頼って発展してきたため、実質的にコレクションの所有権を持っていたり、夫亡き後莫大な遺産を相続したりした女性たちは、大きなスポンサーだからだそう。

《マダムキラーであること。
それがアメリカの館長、スターキュレーターに課せられた、ある意味ミッションでもあります。》

日本で館長というと裏方なイメージですが、欧米では事情が異なるようです。
フランスでも、「国立の美術館の館長が変わればその人事がすぐに世間の話題に上」るほどだとか。

そうと知っていたら世界一周中、もっと館長に注目してミュージアムめぐりをしたんですけど。
マダムキラーがどんな人か、見てみたかった。

さて、わたしがアメリカで「郵便配達人」ことルーランとその夫人を見たのは、フィラデルフィアのバーンズ・コレクション、ニューヨークのメトロポリタン美術館、近代美術館でした。
メトロポリタンも近代美術館も、もちろんケタ違いの広さと質に圧倒されましたが、いちばん印象深いのは、フランス近代絵画を集めたバーンズ・コレクションです。

個人コレクターによる美術館は、旅行中2箇所訪れました。
上記のバーンズ・コレクション、そして、ワシントンのフィリップス・コレクション。

どちらも美術館より親密な空間に、美術館より自由な発想で並べられていました。
そして鑑賞していると、コレクションというものは、本質的には欲望につき動かされてなされる行為なのだと実感させられました。

* * *

ワシントンのフィリップス・コレクションでは、目玉作品ともいえるルノワールの《舟遊びの昼食》をじっくり鑑賞しました。
ふんわりしたタッチで、人々が食べたり飲んだり話したりしている様子が描かれている。

ルノワールの作品は欧米の様々な美術館で見ましたが、ここまで見ていて楽しい気分になった作品はありません。
作品の前のベンチにぼーっとすわって眺めているときの幸福感といったら、もう……。
おそらく、ワシントンの住宅地の邸宅にフッと飾られていることで、スケールの大きい美術館で見るよりもずっと、登場人物の息遣いを感じられたのだと思います。

一方フィラデルフィアのバーンズ・コレクションは、邸宅改装型のフィリップス・コレクションと違って、ジーパンで入るのが恥ずかしいほどセレブリティで規模も大きい。
そして最初の展示室に入った瞬間、目を疑いました。

セザンヌルノワール、ドガ、マティス……ぎっしり、天井までぎっしり並べられている、無数の絵。
年代や作者を意識して作品を配置する、通常の美術館とは明らかに異なります。

あのときの興奮を、文字にすることは到底できません。
しかしどの程度の感動か、もののたとえで言い換えてみますと、「合コンに行ったら福山雅治ディーン・フジオカとトヨエツがいた」に匹敵するくらいよだれがでそうな感じ。

巨匠たちによる名品が、大作も小品も壁一面に配置され、世界一贅沢な部屋と言ってもけっして過言ではない。
そのうえ、1階、2階とそんな部屋が続いているものですから、見ているこっちは「福山とディーンとトヨエツの3人から次々にお持ち帰りの申し出があった」くらいのドキドキの連続。

ほんと、そのくらいすごい。ウソだと思うなら行ってみてください。

* * *

日本の話に戻りますが、ちょっと前に、ある女性タレントが大金持ちの実業家と破局したと、ワイドショーで見ました。
なんと、その実業家は3000億円以上の資産を持っているそうです。

破局はさておき、3000億円なんて一生旅しても使い切れない額。
わたしならそのカネをどう使うかと考えると、結論、絵画のコレクション。
そして美術館を作る。

現実的には売りに出されることはないでしょうけれど、もしカネにものを言わせて好きな絵を買えるなら、何をどう集めたいだろう。
もちろんシロウトの夢想にすぎませんが、並べてみたい組み合わせというのは、あります。

たとえばスイスの抽象画家クレーの淡い色の作品と、アメリカの写実主義の画家アンドリュー・ワイエスの描く風景なんかを同じ部屋に展示したら、抽象と現実を行き来しつつもなんとも心休まる空間になりそうです。
また、ジャコメッティの細長い人間の像と、ゴヤあたりが描いたでっぷり肥えたスペイン貴族の肖像画を並べてみたら、人間の本来の姿とは何か、なんて考えさせられそう。

そんなわけで、使い切れない資産をお持ちのあなた、ぜひともNAO MUSEUMへご出資ください。
みなさまからの寄付と寄贈も、お待ちしております!

 

【展覧会データ】
ボストン美術館の至宝展ー東西の名品、珠玉のコレクション
東京都美術館 〜2017年10月9日
主催: 東京都美術館朝日新聞社ほか

【参考・関連書籍】
嘉門安雄『ゴッホロートレック』(朝日選書、1986年)
高橋明也『美術館の舞台裏』(ちくま新書、2015年)
朝日新聞 記念号外「ボストン美術館の至宝展」

 

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(フィリップス・コレクション、ルノワール《舟遊びの昼食》; 見よ、これぞルノワールの真髄!  同時代の画家カイユボットや、ルノワールの妻も描かれている) 

 

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