【ART】アートは見るもの? 否、読むもの!ー怖い絵展
燦々たる日差しのもと、「タイよりは暑くない、インドよりは断然マシ」と唱えながら手ぬぐいで汗をぬぐう今日この頃、ちょっとひんやりするタイトルの展覧会に行ってきました。
「怖い絵展」。
美術書『怖い絵』シリーズの10周年を記念し、著者である作家・ドイツ文学者の中野京子が監修した展覧会です。
秋には東京にくるようですが、一足先に兵庫県立美術館にて鑑賞。
大変にぎわっていました。
* * *
おっもしろいものがありました。
エッチングという銅版画は、油彩に比べ地味なので見とばしてしまいがちですが、この展覧会のは見逃せない。
たとえば、ジェームズ・アンソールが描いた横たわるガイコツの絵。
ガイコツの絵ならほかにもあるんですが、タイトルを見るとこの絵の意味がわかります。
《1960年の自画像》
アンソールが生まれたのは1860年。
解説には「100歳のオレ」。
あー、なるほど!
解説によると、アンソールという人は「人さわがせな絵ばかり描く」という自身への悪口をきいて、屋根裏にこもりエッチングに没頭したそうです。
ウィリアム・ホガースのエッチングの連作《残酷の4段階》も、すごいもの描いたなあという感じ。
トムという男の少年時代から死後までを描いているのですが、コイツは犬の肛門に矢を突っ込んだり馬に暴力をふるったりする酷いやつ。
挙げ句の果てに、自分を強盗にひっぱりこんだ愛人を、彼女が罪を悔い改めようとしたからという理由で殺します。
当然のように死刑になりますが、遺体は公開の解剖講座にまわされ、目にナイフを入れられ腸を出されというありさま。
画家は「こんなみせしめ、仕返しもまた残酷では?」と問いかけているそうです。
* * *
油彩も魑魅魍魎ぞろいでした。
一緒に展示を見た30代男性のKさんは、全裸にアクセサリー、股には猫という、ムチムチした若い女に見入っていました。
ギュスターヴ=アドルフ・モッサの《彼女》。
しかしよく見ると、女が横座りしているのは人間の屍の山の上。
彼女はマン・イーターだそうで、
「これが私の命令だ。私の意志は理性にとってかわる」
と、画中に書かれています。
きっとヨコシマな欲望を持つものが食われているのでしょう。
ね、Kさん。気をつけて。
悲しい絵もありました。
チャールズ・シムズの《クリオと子供たち》。
のどかな丘、子どもたちと女神がくつろいだ様子です。
しかしよく見ると、女神の持つ巻物に赤いものが付いている。
この絵が描かれたのは第一次大戦中。
シムズは戦争で息子を亡くし、巻物に血を描き加えたようです。
そしてその後、1928年に、画家自身も入水自殺した。
ほかにも、めったに見ないセザンヌの残酷作品《殺人》や、切り裂きジャック事件の容疑者である画家が描いた《切り裂きジャックの寝室》も興味深い。
もっと空いてたらじっくり見たかったな、と思いました。
文脈に合わせて作品を展示するとなると、やはり国内外、多くの美術館から集めていますね。
交渉や輸送もけっこう大変だったのではと想像します。
兵庫県立美術館や姫路市立美術館の作品もうまく組み込まれていて、作品をすでに見ている人も、別の意味合いをもって楽しめそうです。
* * *
アートを文脈で読むと、全然関わりのないような絵と絵が結びついて面白い。
わたしは『怖い絵』シリーズは読んでいないのですが、中野京子の『印象派で「近代」を読む』ほか、個々の絵に隠された意図を読み解いていく本はいくつか読んでいます。
しかし、実際に美術館に行ったとき、本で読んだ絵に出会えるとは限らない。
なので、そもそも絵のどこに着目すると画家の意図や時代背景が読み取れるのか、そんなヒントが得られる本はないかなーと思っていたところ、最近見つけました。
学生向けに書かれているのでわかりやすく、実践的。
機会があればいずれ、この本の内容も紹介したいと思います。
【展覧会データ】
怖い絵展
兵庫県立美術館 〜2017年9月18日
主催: 兵庫県立美術館、産経新聞社、関西テレビ放送、神戸新聞社ほか
【参考・関連書籍】
中野京子『印象派で「近代」を読む』(NHK出版新書、2011年)
池上英洋『西洋美術史入門』(ちくまプリマー新書、2012年)
(ある意味親泣かせの展覧会。子どもに「ねえパパー、この絵はどんな意味?」ときかれた父親が、きわどい表現を噛み砕くのに苦労していた)